学位論文審査プレゼンテーション (綾部 貴典)

 

(スライド1)論文のタイトルですが、Lysine Residues in Human Adenylate Kinase are Essential for Interaction with Adenine Nucleotide as Found By Site-Directed Random Mutagenesisであります。(部位特異的変異導入により得られた変異型酵素のキネティックス結果から、ヒトアデニル酸キナーゼ酵素のリジン残基は、基質アデニンヌクレオチドとの相互作用に重要と思われた。)

分子生物学的手法の発達により、酵素の遺伝子配列、アミノ酸一次構造の決定、さらには、X線回折やNMR解析などによる蛋白質の構造と機能に関する研究がさかんに行われています。私は、アデニル酸キナーゼの基質結合部位の同定や構造と機能の研究は、リン酸転移反応機構やヌクレオチド結合蛋白質の基質認識機構の研究に極めて重要であり、解明が期待される所である。蛋白質工学は、蛋白質の構造ー活性相関関係の研究における強力な手段として、その有用性は、色々な蛋白質で実証されつつある。

リン酸転移酵素の基質結合に関して、ヒトアデニル酸キナーゼを使用して、アミノ酸残基の機能を調べることと、基質とのアミノ酸残基との相互作用を調べる目的で、蛋白質工学的に、アミノ酸を部位特異的に変異させ、構造と機能を調べようと考えました。

本論文は、ヒトアデニル酸キナーゼ酵素の人工遺伝子を使用し、哺乳動物種間で相同性の高いリジン残基に着目し、ランダムに置換し、得られた変異型酵素と野生型酵素を反応速度論的に比較解析を行い、本酵素と基質(ATPやAMP)との相互作用を調べようとしたものであります。後ろのバックグランドのモデルは、ブタの骨格筋アデニル酸キナーゼのX線回折研究による3次元立体構造をコンピュータグラフィックスである。

 

(スライド2)ヒトアデニル酸キナーゼ(AK)について

ヒトアデニル酸キナーゼ(以後AKと略称する)は、194残基のアミノ酸から構成されるリン酸転移酵素で分子量21700の球状蛋白質であります。本酵素は、2価の金属イオンMg2+の存在下、ここに示したリン酸転移反応を可逆的に触媒します。MgATP2- + AMP2- → MgADP- + ADP3-.  この反応式から、本酵素はMgATP結合部位あるいはMgADP-結合部位、また、AMP結合部位あるいはMgfreeのADPを結合する部位という2つのアデニンヌクレオチドの結合部位をもっている。3つのアイソザイムが存在し、AK1は、細胞質に存在し、骨格筋、脳、赤血球にみられる。AK2は、ミトコンドリア膜間スペースに、AK3は、ミトコンドリアマトリックスに存在し、肝臓、腎臓にみられる。本酵素の点変異(Arg128からTrpへの置換)による溶血性貧血が報告されています。

 

(スライド3)AK酵素の単離の歴史表であるが、

アデニル酸キナーゼは、1957年、NodaとKubyらにより、初めてウサギ骨格筋から単離結晶化されました。その後、AKは様々のspeciesから、単離されています。1974年、vonZabernらにより、ヒト骨格筋から、1974年には、Heilらにより、ブタ骨格筋より、1986年、Kishiらにより、ニワトリ骨格筋から、1985年にBruneらにより、大腸菌からも単離されています。このように、AKは細菌から哺乳動物まで、広く存在する酵素であります。

本研究では、ヒトAKを用いました。

 

(スライド4)本酵素の構造と機能解析の歴史的背景を述べますが、

AKは、最も小さなリン酸転移酵素の一つであり、酵素の構造と機能の解析のモデル蛋白質として知られ、以下に述べる様々な研究が、行われています。

1.  X-ray crystallographic studyは、Schulzらにより、(1974年)(3Å分解能のX線回折研究によりまして)、ブタAKの立体構造が報告され、その後、Paiらにより、(1977年)様々な基質と基質アナログをソーキングさせたX線回析により、本酵素のATPとAMPの基質結合部位を挿入したモデルが提唱されました。

2.  NMR studyは、(1987年)FryとMildvanらにより、(X線結晶解析により得られた)MgATP結合部位の解明を試みました。ウサギ骨格筋AKのN末端ペプチドと、N末端と同じ配列で人工合成したペプチド(1-45)を用い、基質MgATP(とCr3+ATP)を飽和させて、Proton NMR解析を行い、Lys21, Lys27がMgATPのリン酸部位に近接していることを報告しました。(他に、Ile28, Val29, His36, Leu37, Leu91がATPに近接していることも報告しました)。また、Tsaiらは、ニワトリAKの変異型酵素と野生型酵素を用い、基質アナログを飽和させてNMR解析を行い、構造の変化や基質アナログとの距離の差異を比較することで、構造機能解析を行いました。

3.  kinetic analysis of peptide fragmentは、Kubyらにより、蛍光消失法を用いて、ウシ骨格筋酵素のN末部酵素ペプチドフラグメント(1-45)は、Mg結合型ヌクレオチド(MgeATP)との結合の相互作用を示し、C末部酵素ペプチドフラグメント(172-194)は、Mg非結合型ADP)との相互作用を示すことを報告して、2つの基質結合部位の存在を示唆した。

.  Site-directed mutagenesis(部位特異的変異導入)は、Kimらにより、ヒトAKを用い、アルギニン酸残基4つのアラニンへの変異体を用いて、酵素キネティックス解析を行いました。また、Yoneyaらは、ニワトリAKを用い、Leu190やLeu66, Val67の部位特異的変異体を作製し、キネティックス解析を行い、基質結合部位や、触媒反応に重要な残基を調べました。

 

1. X-ray crystallographic study

      (Schulz et al., 1974, Pai et al., 1977, Egner et al, 1987, Schulz et al., 1990)

2. NMR study

      (Mildvan and Fry et al., 1987, Yan & Tsai, 1991)

3. Kinetic analysis of peptide fragment (Kuby et al., 1978)

4. Site-directed mutagenesis

      (Kim et al., 1990, Yoneya et al., 1990, Yan & Tsai, 1991)

5.   Chemical modification

      (Reinstein et al., 1988, Tagaya et al., 1989) 

(Chemical modificationですが、Tagayaらは、Lys21残基を化学修飾して、その酵素活性が低下し、ATPに関与するという結果を報告しました。)

 

(スライド5)Kimらの報告した基質結合部位提示モデル

1990年、Kimらが提示した基質結合部位を表したAKの立体構造モデルを示します。

このモデルは、(先ほど申しました)Schulzらが報告したブタAK1のX線結晶回折の結果得られた立体構造に、Kimらが調べたアルギニン残基と基質との相互作用を示しております。MgATPの結合するサイトが左側、AMPの結合するサイトは右側に示されています。AKは、10個のαヘリックス構造と5つのβストランド(β構造)が存在している。

この折れ曲がったループ構造の領域は、F1ATPase、ミオシン、チミジンキナーゼ、ras p21などの多くのヌクレオチド結合蛋白質と共通なモチーフがみられ、GLYCINEが豊富に存在するのでGlycine-rich loopと呼ばれています(15G, 16G, 17P, 18G, 19S, 20G, 21K, 22G, 23T: GGXGXGKGX) 。1977年当時、Paiらは、X線回折により、この図とは逆の、AMPが左側、ATPが右側の基質結合モデルを提出し、一方、Mildvanらは、NMR研究により、AMPもATPもいずれも左側の基質結合モデルを提唱しましたが、1990年Kimらによって、AMP部位に着目した。保存性の高いアルギニン残基(44, 97, 132, 138, 149)のアラニンへの変異体酵素の反応速度論的解析の結果によりまして、図に示したように、ATPが左側でAMPが右側に結合するモデルを提出しました。現在のところ、AMP結合部位は、右側にあるとするこのモデルを支持する報告が多いが、(しかしながら)、左側のATP結合に関与するアミノ酸残基について解析した報告は少なく、ATP基質結合の様式についての研究が待たれていました。そこで、私は、左側に存在するとされるATP結合部位に着目し、ATPとAKの相互作用について調べるために、ほ乳類動物間で保存性の高いリジン残基に着目し、部位特異的変異導入を行い、それらの酵素活性への影響を調べました。

 

(スライド6)AK1の一次構造の比較

これは、AK1の一次構造を、ヒト、ウサギ、ウシ、ブタ、トリについて比較したもので、85%以上の高いhomologyを示しております。アミノ酸の保存されている領域は空欄で表しており、赤で囲った残基は、本研究で部位特異的変異導入を行ったリジン残基であります。Lys9、21、27、31、63、131は、5種類に共通に見られますが、Lys194は、ニワトリには存在せず、他の哺乳動物には共通のC末端Lys194があります。このLys194は、いわば、ニワトリのC末端に付加したと思われ、生物の分子進化を考慮に入れると、これを変異させることは、非常に興味ある残基と考えました。

 

(スライド7)KimらのモデルにLysを図示したAKモデル

先ほど示した7つのリジン残基の位置は、このモデルに示します。N末端から、9、21、27、31、63、131とあり、最後にC末端の194がある。この中で、Lys21は、グリシンの豊富なループ構造の中に、Lys27とLys131は、αヘリックスの中に存在する。

 

(スライド8)本研究の目的ですが、

1)ヒトアデニル酸キナーゼ(AK)の野生型酵素と変異型酵素を、酵素反応速

  度論的に比較解析し、ヒトAKとATPの相互作用を調べる。そのために、

2)哺乳類動物間で保存性の高いリジン残基7つ(K9, K21, K27, K31, K63,   

  K131, K194)に着目し、本酵素の人工合成遺伝子を用いて、部位特異的変異

  導入を行う。それから、

3)実験の効率化を図るために、プライマーのデザインを工夫することで、標的

  リジン残基に対する変異体を、一度の操作で複数作製する。更に、変異体の

  蛋白質を発現させ、精製する系を確立する。

 

(スライド9)人工遺伝子のシークエンスを示します。

本研究では、Kimらがヒトアデニル酸キナーゼのアミノ酸配列をもとに人工合成した遺伝子を用いました。ここに、実際に置換を試みた遺伝子上のリジン残基を赤で示しています。hAK1遺伝子は、5'側にCla1 site、3'側にSal1 siteの制限酵素部位が設定され、194のアミノ酸のコドンと2つの終止コドンを作製しています。

 

(スライド10)pAKからpMEX8-hAK1へのベクターの構築

ヒトAK遺伝子(hAK1)の入ったpAKベクターより、hAK1遺伝子をCla1,Sal1の制限酵素で、切り出した。pMEX8ベクターをEcoRI、Sal1で切断した。pMEX8の両端は、Calf Intestine alkaline phosphataseを用いて、脱リン酸化し、DNA ligation kitを用いて、hAK1geneのSal1部位とpMEX8ベクターのSal1部位を結合させた。hAK1geneのCla1部位とpMEX8ベクターのEcoR1部位をBlunting end処理後、DNA ligaseを用いて、両端の結合を行った。このようにして作製したpMEX8-hAK1 vectorは、helper phageによる一本鎖DNAの回収、部位特異的変異導入、次いで、蛋白質の発現が可能です。

作製したプライマーの一覧表を次に示す。

 

(スライド11)primer list

pMEX8-hAK1は、ヘルパーファージによって、右回りのセンス鎖の一本鎖DNAが作製されるので、プライマーは、アンチセンス鎖で合成した。工夫した点は、標的部位がプライマーの中央になるように設定し、ランダムに複数の変異体が一度の操作で作製できることを期待して、コドンの第1番目と2番目のX塩基は、A,G,C,Tの混合物となるように、第3番目のY塩基は、G,Cの混合物とした。プライマーは、20から30の塩基数になるように、(β-シアノエチルフォスホアミダイド法で)作製されたものを用いた。このXXYで構成されたコドンの塩基配列の組み合わせは、すべてのアミノ酸をランダムに表現させうるよう工夫した。次に、部位特異的変異導入法を示す。

 

(スライド12)部位特異的変異導入法 フローチャート

部位特異的変異導入は、Ecksteinらのphosphorothioate法を用いました。

まず、大腸菌JM109に形質転換したpMEX8-hAK1を、Ampicillin(50μg/ml)を含む10mlのTYP mediumで、600nmでの測光した濁度が0.5になるまで、培養したものに、ヘルパーファージ(VCS-M13)を、対大腸菌体比が10:1から20:1の間になるように加え、最終濃度25μg/mlのkanamaycin存在下、37℃で一晩培養を続けた。遠心分離して得られた上清ファージ液に、ポリエチレングリコール6000/2.5M NaCl溶液を加え、15分間静置した後、再び遠心した。沈澱をTE bufferで溶解した後、クロロホルムとフェノールで一本鎖DNAを単離した。

この方法で得られた一本鎖テンプレートDNAのpMEX8-hAK1に、XXYを含むプライマーをアニーリング(70℃, 3min, 37℃, 30min, on ice)させ、T7DNA Polymerase, T4 DNA ligase, dNTP mixtureを用いて、相補鎖の伸長と連結(RT,10min, 37℃, 30min, 70℃, 15min)を行い、ヘテロ二本鎖を合成した。dCTPの代わりに、dCTPαSを使用して合成しているので、新しく合成された太い鎖は制限酵素Nci1では切断されませんが、テンプレートDNAのみ、Nci1でニックが入る(37℃, 90min)。(Nci Iは、ccggg領域のCG結合を切断するが、dCTPαSで置換された鎖は、Nci Iでは切断されない。このdCTPαSは、α位のリン酸基のO原子の代わりにS原子が入っている)。(残存した一本鎖DNAは、T5エキソヌクレアーゼにて除去される)。Nickの入ったtemplate DNAは、エクソヌクレアーゼIII処理にて、Nickの入った箇所より、3'から5'の方向へ、順次削除され、エクソヌクレアーゼ反応を30minでstopさせる。(37℃, 30min, 70℃, 15min)。一部残った領域がプライマーとなったところで、DNA polymerase I, T4 DNA ligase, dNTP mixtureを用いて(37℃, 60min)、相補鎖を合成し(伸長と連結)、ホモmutant 二本鎖が完成する。

次に、変異体のスクリーニングの方法を示す。

 

(スライド13)mutant のScreening についてですが、

ホモmutant2本鎖 DNAを大腸菌TG1に形質転換させ、アンピシリン選択LBプレートで、一晩培養し、生育した単一コロニーをAmp添加LB培地10mlに移し、さらに一晩培養した。ここで、培養した大腸菌は、アルカリ変性法を用いたキットを使用してプラスミドを精製した。PCRを用いたDNAサイクルシークエンスは、サンガー法を用いて行った。反応液は、2本鎖プラスミドDNA 2.8mgに対して、DMSO (1ml)が加わり、fluorescein isothiocyanate (FITC)でラベルした蛍光DNAシークエンスプライマー(2pmol)を加えて、95℃で10分加熱後、氷上で急冷したものに、Taq溶液(2U)を追加した。(AmpliTaqTM DNA PolymeraseとTaq DNA Polymeraseの9:1で混合し作製した)。これを、それぞれ、Termination mixtureのddATP, ddGTP, ddCTP, ddTTP反応液に、加え、PCRは、以下の反応条件で行った。95℃ for 5 minを1 cycle、95℃ for 30 sec、53℃ for 30 sec、72℃ for 60 secを20 cycle、さらに95℃ for 30 sec、72℃ for 60 secを20 cycle。PCR増幅産物は、autosequencerにアプライし、DNA配列を決定した。

次に、決定したDNA配列像を示す。

 

(スライド14)DNA sequence結果図 (Lys194)

これは、Lys9変換体のDNA配列の一部を切り出して示している。Lys9の野生型のコドンはAAGであるが、変異はCCGのPro、、、、、として同定された。

 

Lys194変換体のDNA配列の一部を切り出して示している。Lys194の野生型のコドンはAAAであるが、変異はTCCのSer、ACCのAsn、GTGのVal、ATAのIle、CCCのPro、TTGのLeuとして同定された。なお、194の下流のコドンは、TAATAGのstopコドンであることも確認した。8番目のThrは、ACTで、10番目のIleは、ATCで全て同じでありました。

Lys131, Lys31, Lys27, Lys21, Lys63, Lys9の順に示す。

次に、こうして得られた変異体AKを単離精製した方法を示す。

 

(スライド15)部位特異的変異導入の結果を表に示しているが、

7つの標的リジン残基に対して、変異体は合計26個得られた。Lys9は4種類、Lys21は1種類、Lys27は4種類、Lys31は3種類、Lys63は1種類、Lys131は3種類、Lys194は6種類の変異体を確認し、変異の効率は、それぞれ、10%から40%であった。最終的には、94個のコロニーから26個の変異体を確認したので、平均の変異効率は、27.6%であった。変異体の種類は、セリンが4つ、プロリンが4つ、ロイシンが4つ、フェニルアラニンが4つ、イソロイシンが3つバリンが2つスレオニンが1つ、アルギニンが1つ、アスパラギンが1つ、アラニンが1つ得られ、他のアミノ酸への変異は見られなかった。これらの変異体の中には、第3番目のコドンをGかCにセットしたにもかかわらず、ATAのK27I、K194Iがみられた。

次に、作製した変異型酵素を単離精製した方法を示す。

 

(スライド16)野生型酵素と変異型酵素の大腸菌培養、蛋白質発現、精製過程をしめすが、

野生型AK、変異型AKのプラスミドは大腸菌TG1に形質転換され、37℃、5mlのLB培地で一晩培養した後、250mlのLB培地に移して、更に一時間培養した。isopropyl-β-D-thio galactopyranoside (IPTG)を最終濃度1 mMとなるように加え、更に16時間培養した。

遠心して集菌した沈澱を、トリスの標準緩衝液中で超音波破砕し、遠心して得られる上清を次に示すカラムクロマトグラフィーを行った。

 

(スライド17)purification(Blue Sepharose Chromatography chart)

これは、Blue sepharose カラムクロマトグラフィーの溶出パターンである。前の行程で得られた上清を、Blue Sepharose columnにアプライし、トリスの標準緩衝液で、0.5ml/minの流速で洗浄した。カラム溶出液が、280nmの吸収を示さなくなった時点で、0M - 1MのNaCl濃度勾配の存在下、流速0.5ml/minで結合蛋白質を溶出させた。NaCl濃度が、0.3 - 0.7 M NaCl の領域に、AKの溶出がみられた。右のパネルは、その間の各画分の蛋白質組成を、SDS存在下での12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動したパターンである。他の変異体についても、この溶出パターンと同じ結果を示し、また、SDS-PAGEパターンもこれと同じであった。(Blue Sepharoseは、NAD+やNADP+などのヌクレオチド補酵素を必要とする酵素を、生体特異的に吸着する色素リガンドで、高濃度の塩濃度で結合した蛋白質の溶出が行われる。)

次のステップは、ファルマシア社のSuperose12を用いたゲル濾過による精製段階である。

 

(スライド18)purification (Superose 12 chromatography chart)

Blue sepharose カラムクロマトグラフィーで回収したAK画分は、セントリプラスで、遠心して濃縮し、Superose 12 カラムゲル濾過により精製した。右のパネルは、溶出されたAK画分のSDS-PAGE像であるが、このように、クマシーブリリアントブルー染色で単一のバンドから成っていた。

次のスライドに、すべての変異型酵素の単離のデータをまとめた。

 

(スライド19)Results of purified enzymes

いづれの変異型酵素も野生型と同じ条件で培養したが、蛋白質収量は、野生型よりもかなり低く、比活性は、野生型を100%として相対値で示したが、大きく低下していた。K27VとK131Pは、大腸菌で発現していたことが確認されたが、大腸菌破砕液の可溶性画分には現れず、不溶性であった。不溶性の原因を究明するために条件を変えて可溶化させる試みは、今後の興味ある課題と考えている。

AK活性の測定法について説明する。

 

(スライド20)酵素反応比活性測定 (AK assay) の方法を示すが、

反応液の組成は、右に示されているように、75 mM Triethanolamine (pH 7.6)、120 mM KCl、0.2 mM NADH、0.3 mM PEP、0.3 mg/ml BSA、5 U/ml LDH、6 U/ml PKである。

また、下に示したように、NADH、ホスホエノールピルビン酸、LDH乳酸脱水素酵素とピルビン酸キナーゼ(PK)を共存させるcoupled enzyme assayを用い、340nmでのNADHの吸光度の減少の初速度を測定した。25℃で、赤で示すように種々の濃度のATP及び、AMPを加えた。つまり、AMPに対する基質濃度依存性は、ATP濃度を2mMに固定した条件では、2mMのMgSO4存在下で、AMP濃度を、2, 1, 0.5, 0.33, 0.25 mMというようにそれぞれ変えた濃度を使用しました。また、ATPに対する基質濃度依存性は、AMP濃度を2mMに固定し、ATP濃度とMgSO4の濃度を、2, 1, 0.5, 0.33, 0.25 mMというようにそれぞれ変えた濃度を使用し、AKを加えて反応を開始させた。一分間に1μmolのATPを消費させるのに必要な酵素量を(1 unit)と定義した。

 

(スライド21)double reciplocal plot, Lineweaver-Burk plot 図

これは、K194Pの2mM ATP固定のAMP濃度を変えて行った結果から、プロットしたものを示しているが、

先のアッセイ法で、それぞれの基質濃度に対する初速度[Vo]を求め、これらの基質濃度[S]の逆数1/[S]に対して、初速度[V]の逆数1/Vをプロットし、すなわち、両逆数プロットを用いて(Lineweaver-Burk plot, X軸に1/[s],Y軸に1/[V]をplotする二重逆数プロット)、最小二乗法により、直線が得られる。この直線のX軸との交点が、-1/Kmであり、Y軸との交点が1/Vmaxで、それぞれ、Km、Vmaxを求め、その値をもとに、酵素反応定数(kcat、kcat/Km)値を算出した。AMPに対するKmの測定の場合も同様に行った。

さらに、Vmaxを酵素濃度で割った値、kcat、および、kcatをKmで割ったkcat/Kmを算出した。

ここで、Kmは、酵素反応最大速度の1/2を与える基質の飽和濃度を表し、kcatは、ESよりEとPへの生成反応速度定数K2をあらわし、反応速度Vを酵素全濃度で除したV/[E]0=kcat (catalytic constant)を用い、酵素の反応サイクルの最大回転数を表す。kcat/Km値は、(本実験の条件下では、k-1がk2に比べ、限りなく小さい条件下で)EとSよりESへの結合反応速度定数を表すk1を表す。)

(kcat/Kmは、反応中間体の生成物側への速度定数が、反応中間体の反応生成物側への逆反応への速度定数より十分に大きいときには、反応中間体の生成反応の速度定数を表すパラメーターである。)

次のスライドは、変異体について得られたパラメーターを野生型と比較してまとめたものを示す。

 

(スライド22)全ての変異体のキネテックス結果をまとめたテーブルである。

Kmは、野生型を1.0としたときの相対数の倍数(fold)を( )内に表し、kcat及びkcat/Kmは、野生型を100%とした時の相対値を( )内に表している。数値が、多く煩雑なので、各残基グループ毎に分けて、変異体と野生型の結果をわかりやすくするために、グラフ化して比較し、順次説明していきます。

 

(スライド23)Properties of K9-mutants

Lys9は、N末端側最初のβストランドのこの付近に存在し、モデルでは両基質から離れているところに位置する。

K9Pについて、Km値は、基質についても野生型の5分の1に低下し、両基質ともAKとの親和性が5倍にまで上昇したことを示した。一方、kcatは、10分の1に低下していたが、kcat/Kmは、いづれの基質に対してもおよそ2分の1に低下したのみであった。(Proがアミノ酸配列のバックボーンを変えうることを考慮して、K9Pでは、両基質を疎水性の領域が大きくなったことが結合部位の深い奥部に留められていた可能性がある。)他方、他の変異体では、いずれもKm値の上昇がみられた。ATPに対するKm値は、Phe、Leuの導入で2倍程度にしか上昇しなかったのに対し、K9Tでは、約10倍にまで増大していた。一方、AMPに対するKm値については、Pheの導入では2倍程度上昇したが、ATPについては、Leuで7倍、Thrでは、10倍の上昇がみられた。(この部位を、疎水性が低いLysから、Phe、Leuという疎水性の高い残基に置換した場合よりも、疎水性の低いThrに変換した場合の方が、Km値の増大が大きかったことは、全くのspeculationではあるものの、Lys9は、疎水性のミクロ環境に位置し、Lysの4つのメチレン基がATP結合のための構造維持の役割を果たしていたのかもしれない。ATPとAMPに対するKm値を比較すると、K9Lでは若干ではあるが、AMPに対するKm値がATPに対するそれよりも、3倍程度大きかった。この事実は、Phe、Leu共に、疎水性度が高く、両者に疎水性環境から親水性環境への遷移の自由エネルギーに違いがないことから、両アミノ酸の側鎖の大きさが酵素反応に影響しているのかもしれない。すべての変異体でkcat、kcat/Kmが同程度低下していたことは、k2も同じ程度に低下していた可能性がある。K9Lでは、AMPに対するKm値がATPのそれに対しても3倍上昇し、一方、kcat/Kmは3分の1に低下していたことから、k2には変化がなかった可能性がある。

Lys9についての以上の実験結果から、本酵素のLys9は疎水的な環境にある可能性が示唆され、その置換は両基質結合部に阻害的な効果を与えたとの解釈もできる。

(まとめ)これらK9-mutantsの結果は、MgATPとAMPのKmを増加させ、または、AMPのKmを増加させ、kcatを大きく減少させたことから、両基質に関与するか、または、MgATPよりもAMPに大きく関与する可能性があることが示唆された。

 

(スライド24)Properties of K21-mutants

Lys21は、グリシンの豊富に構成されるループ存在し、両結合部位に近く、またこのループは、種々のヌクレオチド結合蛋白質に共通して存在することから、基質結合部位に大きな影響を与えることが期待されています。Lys21のProへの変異は、Km値をいずれの基質に対しても増大させた。kcatも20分の1に低下し、kcat/Kmはいずれも基質に対しても0.3 0.4%にまで低下した。ATPとAMPの間で比較すると、Km値はATPに対しての方がAMPに対してよりもわずかではあるが大きかった。

したがって、Gly-rich loopのLys21部位での構造変化は両基質の親和性を減少させ、触媒作用を減少させ、その影響はATP結合部位に大きい可能性が示唆された。

 

(スライド25)Properties of K27-mutants

Lys27は、αヘリックスの中に位置し、このモデルでは幾分ATP結合部位、特にアデニン環に近いようであります。いずれの変異体についても、AMPに対するKm値は、ほとんど変化がなく、AMP結合部位から遠位にあることが想像された。一方、AMPに比べてATPに対するKm値の方が増大し、ATP結合型をやや不安定にする傾向がみられた。kcat/Kmについては、ATPに対しての値の方がAMPに対するそれよりも低下の度合いが大きく、AK ATP複合体の形成がわずかながら低下させられたようである。このことが、kcatの低下の原因となっているのかもしれない。

これらの結果が示唆するには、Lys27の変異は、ATPの結合をより大きく阻害していることであり、モデルの位置から想像した相互作用と矛盾はないといえる。

このデータで興味深いことは、Argに置換されたK27Rが、Km値を大きくは変化させなかった反面、kcatやkcat/Kmを大きく低下せしめたことである。LysとArgは共に塩基性アミノ酸としての性質を有し、その側鎖の長さもそう大きくは違わないにも関わらず、反応速度を大きく減少させたことは、Lysのeアミノ基はがリン酸基転移反応に関わっていると考えた。ここで、K27R、K27L、K27Iの3つについて比較すると、ATPに対するKm値が疎水性の上昇と共に低下したことは、この残基がモデルにみられるようにAK分子の表層部、すなわち親水性領域に位置することと矛盾しない。

 

(スライド26)Properties of K31-mutants

Lys31は、αヘリックスの終末にあり、酵素の中心から離れているようにみえ、親水性領域に存在している。このことから、疎水性度の高い残基への変換が酵素反応を大きく変えることが予想された。ところが、Ileへの変換は、疎水性が増したのにも関わらず、両基質に対して、Km値を変化させなかった。したがって、ATPあるいは、AMPに対する親和性が増したのにもかかわらず、両基質に対してKm値を変化させなかった。したがって、ATPあるいは、AMPに対する親和性の変化があったとしても、この部位の残基の疎水性の変化のみが原因となったとは、考えにくい。他方、興味深いことには、この部位のPheへの変換は、ATPに対するKm値をAMPに対するそれよりも大きく増大させ、kcatについては、それとは、逆の結果を示した。これとは、逆に、Serへの変換はAMPに対するKm値を大きく増大させ、kcatについては、AMPに対しての方が、ATPに対してよりも低下が大きかった。kcat/Km値については、Pheは、ATPに対するkcat/KmをAMPに対するそれよりも低下させ、SerはAMPとの関与により大きな阻害効果を及ぼしたことになる。

いずれの基質結合部位からも遠位にあるこの部位のLys31アミノ酸残基の側鎖が、ATP結合とAMP結合を相反する形ではあるが、いずれにも影響したことから、この部位は両結合部位の双方に比較的近接したところにあるのかもしれない。そして、この部位のアミノ酸残基の側鎖の性質、つまりは、疎水性度、と大きさの両者が、基質を結合するときのAKの構造変化を規定したことが推論された。このモデルでは、ATPもAMPも比較的深い部分に結合して描かれているが、このαヘリックスがもう少し手前に首をふり、基質もともに少し手前に来ていると、Lys31との関与をうけやすいのではと考えている。

 

(スライド27)Properties of K63-mutants

Lys63は、モデル右側のAMP側に近くに位置するようにみえます。

K63F、AMPに対するKmは、野生型と比較し、変わらなかったが、ATPに対するKmは8倍に増大した。kcat/Kmはいずれの基質に対しても野生型より顕著に低かった。(変異アミノ酸への置換そのものが親和性や触媒活性を低下させるとすると、Pheの導入はその低下を幾分なりとも抑制したことになる。この仮定が正しいとすると、Pheは、AMPのアデニン環と相互作用することにより、ATPなみの低下を抑えたのかもしれないと考えている。

 

(スライド28)Properties of K131-mutants

Lys131は、このモデルで両基質のリン酸基の上におおいかぶさるように位置するαヘリックスの中にあります。この領域は、gly-rich loopと共同してヌクレオチド結合部位に蓋をするような動きをすると考えられている。したがって、この残基の変異は、両基質の親和性を変化させることが考えられた。しかしながら、Alaへの変換は、AMPに対するKm値は変えず、ATPに対するKm値を増大させた。kcat/Km値についても、減少し、ATPについての値がAMPについての値のほぼ10倍となった。一方、Pheの導入は、ATPに対するKm値を増大させ、kcat/Km値を低下させたが、Alaでみられたほどのものではなかった。いずれの変換体についてもkcatは、同程度の低下であった。同じ疎水性残基であるPheとAlaがこのような

大きな違いを導き出したことは、意外であったが、以上の観察結果から、Lys131の置換は、ATP結合の親和性を低下させたことになり、この残基が少なくともATPとの比較においてAMPからは遠位にある可能性が示唆された。

 

(スライド29)Properties of K194-mutants

Lys194は、C末端のαヘリックスの末端部にあり、両基質結合部位から、離れているように見える。また、ニワトリのAK1は、アミノ酸が193残基しかなく、C末端はLeuで終わっており、Lys194は存在しません。Lys194はいわばC末端に付加的に結合した残基で、置換の効果は、大きなものではないと予想した。

導入されたアミノ酸は疎水性の高い順に、Ile>Val>Leu>Ser>Pro>Asnである。結果は、予想外なものであった。Ileの導入はいずれの基質に対してもKmを小さくしたが、kcat/Km値の比較に見られるように、このKmの差は、ATPの結合の速度がAMPのそれよりも早いことに依るらしい。Ileと疎水性において近いValへの置換はATPに対するKmを変えず、AMPに対するKmを20倍と大きく増大させた。ValはAMPの結合を阻害していたように見られる。一方で、同じ疎水性残基であるLeuは、Valとは逆にATPに対するKmを増大させ、AMPに対するKmを小さくした。Leuに置換したAKのkcatが野生型の14%に低下したが、Kmが野生型よりも10倍ほど小さいために、AMPを基質としたときにのkcat/Kmは野生型の2倍になった。従って、K194Lでは、AMPの結合が促進された可能性が高い。Val変換体と比較すると、AMPの結合はおよそ3000倍になった。これらの結果から、Lys194の疎水性と基質との親和性の間に相関はないことが明らかになった。疎水性の低いProに置換した場合、AMPに対するKmが野生型の5分の1に低下した反面、ATPに対するKmは3倍の増大であった。Proよりも疎水性度の低いAsnへの置換は、いずれの基質に対してもKm値を大きくは変えなかった。さらに、疎水性度の低いSerの導入は、AMPに対するKmよりもATPに対するKm値を大きく増大させた。Ile、Val、Leuという疎水性残基を側鎖にもつアミノ酸でこのように大きく異なった結果が得られたことは、C末端部のLys194がAKの活性発現に大きな影響をもっていることを示した。

Lys194の変異の影響は、疎水性の差異にも、側鎖にも依存しなかった可能性が高い。このモデルにみられるように、Lys194は、23から30までのαヘリックスのC末端側と近位にある。Lys31では、Pheに置換した場合には、ATPに対するKmが増大し、Serへの置換でAMPに対するKmが増大した。したがって、Lys-Serのペアについてみてみると、K31とK194では相反した結果が得られたことになる。ハLys194が直接にATPおよびAMPと相互作用することは、可能性が低く、溶液におけるAKはこのモデルとは幾分違った立体構造をとっていることが想像される。しかしながら、Lys194残基が、ATPとAMPの両基質の結合に大きな影響を及ぼす位置にあることが、示唆された。

 

(スライド30)酵素反応速度論的結果のまとめ (キネティックスまとめ)

このスライドは、7つのLys残基の変異体のキネティックス結果を理解しやすくするために、まとめなおした表です。Km値の野生型に対する変化の程度は、1以上5未満が、空欄で、5以上10未満が、ワンプラス、10以上15未満がツープラス、15以上20未満がスリープラス、20以上がフォープラスとし、kcat,kcat//km値は、100%以下10%以上が、ワンマイナス、10%以下1%以上がツーマイナス、1%以下0.1%以上がスリーマイナス、0.1%以下がフォーマイナスです。この表から、Lys9,31はATP,AMP両基質との相互作用に働くこと、Lys21は、両基質と関連するが、ATP側により大きな影響を与えること、Lys27,63,131はATP側とより密接に関与すること、Lys194は複雑な効果を上げるが、両基質の結合反応に関与し、AMP側により大きな影響を与えることが示唆されました。また、ほとんどの変異体において、触媒効率の大きな減少がみられた。

 

(スライド31)新しく提唱するモデル

このスライドは、(X線結晶回折研究によるブタAKの立体構造モデルに)、置換したリジン残基の位置、及び、得られたキネティックス結果より、リジン残基と基質との相互作用の関係を示しました。(これらのリジン残基は、以前Kimらにより報告済みのアルギニン残基などとともに、協調して、MgATPとAMPにおけるリン酸転移反応に関与するであろうと思われた。)

 

Lys9残基は、ATPとAMPの両基質に関与するか、または、より大きくAMPに関与すると思われ、Lys21は、ATPとAMP両基質結合に関与するが、特により大きくATPに関与することが観察され、Lys27とLys131は、ATPに大きく関与し、触媒の役割の一部に寄与していることが示唆され、Lys63は、ATPとの相互作用に大きく関与するものと思われ、C末端Lys194は、 ATPだけでなく、AMPとの相互作用にも関与することが示唆され、触媒には重要であると思われた。

 

(スライド32)まとめ

(1)ヒトAKをコードするcDNAを用い、比較的容易に短時間に複数の変異体を得る大腸菌発現系を確立した。

(2)リジン残基(K9, K21, K27, K31, K63, K131, K194)に対して、ランダムに部位特異的変異導入を行い、26種類の変異型酵素を得た。

(3)変異型酵素の酵素キネティックス解析により、基質(ATP, AMP)親和性及び触媒作用の増加や減少が観察され、リジン残基は、酵素活性に必須なアミノ酸残基であることが示唆された。

 

本研究の将来への展望も含めたものに、

X線結晶回折研究によって提唱されたAK モデルは基質阻害アナログを用いて結晶の構造を表したもので、NMR研究からの構造モデルは、溶液中での構造を反映している。

定常状態でのキネテックス解析により得られたこのモデルは、X線回折やNMR研究により得られたモデルを、溶液中の反応系の、より動的で、生理学的な溶液中での特性を表していると思われる。

変異体AKと基質との複合体の構造解析をするために、より詳細なX線回折やNMR研究が必要で、さらに、構造変化を調べる上で、変異体のCDやORD研究も必要であろう。)

われわれの、次の展開は、生理学的機能に必要な他の重要残基に対して、また、アミノ酸残基と基質との相互作用を調べるために、むけられるであろう。